2012.10.16 Tuesday
この夏、後悔したことについて
※先に言っておきますが、この文章、かなりの長文の上、情けない話が続きます。
8月のとある休みの日、奈良へ帰省していた小学校の同級生、H君と飲みに行った。西大寺近辺で飲んで、まあそれは楽しいお酒を飲み、帰りにもう一件行くほどでもなかったので、駅前のスターバックスに二人で入った。
GR Digital 3 写真はイメージです。当日のものではありません。
私達は大テーブルの端っこに座った。私の斜め前にはスマホをいじっている若い女の子が座っていた。いまどきの女の子である。無表情でちょっと愛想のない感じの子だなと思った。
H君には一年ぶりに会う。前回会ったときは25年ぶりくらいの再会だった。だから今回の再会は、一年ぶりというより、25年ぶりの再会Part2という感じ。だから話のネタはつきない。昔一緒に遊んでいた頃のこと、25年の間にそれぞれが経験してきたこと。話し、聞き、感想を言い合う。旧友との再会は、自分の過ごしてきた時間の確認作業なのかもしれない。
しばらくして、一人のおばあさんがレジのところにいるのに気がついた。およそスターバックスの注文のシステムなどわからないであろう感じのおばあさんだ。(たいていのおばあさんはスターバックスのシステムなどわからないにちがいない)
案の定、おばあさんは、店のシステムなど分からなくて少しオロオロしている。私はこういう場面が苦手だ。かといって、店の人がいるのに、私がしゃしゃり出て助け舟を出すのもおかしい。私とH君は少し心配しながらそれを見ていた。
しかし、スターバックスの店員さんは優秀で親切だ。おばあさんの欲しいものを上手に聞き出し、それを用意し、お金を払ってもらい、商品の載ったトレイを持って、おばあさんを席まで案内した。
私もH君はホッとして、また25年ぶりの再会Part2の会話に戻る。おばあさんが案内された席は先ほどのスマホをずっといじっている女の子の横だった。
私のナナメ前に座ったおばあさんを、チラッと横目で見る。なんというか、30年くらい前にはよくいた、声の大きな昭和のおばあさんという感じで、あんまりチラチラ見るのも失礼なのだが、どこか見ずにはいられない、ちょっと個性的な方だった。私が二回目くらいにチラッと見たとき、おばあさんは、注文したドーナツやら、飲み物に手をつける前に、いきなり隣の女の子に話しかけだした。
ああいうお店というのは、一人の人は一人の楽しみ、連れと行った人は連れとの時間を楽しむようなお店だ。平日の午後9時前、働くサラリーマンやOLの方々が自分の時間を取り戻す、そんな場所である。そういう店で、スマホをずっといじっている、いまどきの女の子におばあさんは大きな声で話しかけたのだ。
「おじょうさんはこんなとこ、よう来はりますのんか!」
私は本当にこういう場面が苦手だ。心の中で「あああ」と叫んでしまったくらいだ。女の子はきっと不機嫌そうに「ええ、まあ」と答えて話しかけられるのを拒絶するような態度をするのだろう、おばあさんはそんな彼女の態度に気づきもせず、話しかけ続けて、女の子は無言で席を立ってしまうにちがいない、無表情でスマホをいじりつづけているこの子はきっとそんな子にちがいない、ああ〜、とグルグル考えてしまった。
しかし、女の子はスマホから目を離し、くるっとおばあさんの方を向いて、にこっと笑って言ったのだ。
「ええ、わりとよく来ます(^^)」
それまでが無表情で愛想のない感じだったので、私は ポカ───( ゚д゚ )───ン 状態。
一番のびっくりポイントは「くるっとおばあさんの方を向いて、にこっと笑って」というところだ。いきなり話しかけられた(おばあさんとはいえ)見知らぬ人に、この対応をズバッときめるこの子は只者ではない。(レジのところでのバタバタ状態も耳に入っていたはずだ)
驚いたものの、そんな対応をしてくれたのなら、ひと安心、と思ったが、そうは問屋がおろさなかった。おばあさんは、女の子の対応に気をよくしたのか、一気に話し出した。あろうことか、最近の若い子への文句から、人生論に至るまで延々と話し出した。(念のために言っておくが、盗み聞きをしたのではない。勝手に聞こえてきたのだ。)
しかし、女の子はずっと笑顔で話を聞いている。ただ単に相槌を打つだけでなく、おばあさんに「でも・・・は〜ですよね。」なんて返したりして、ちゃんと興味を持って聞く姿勢で会話をしている。しかも品のない感じではなく、上品な感じなのだ。
予想外の展開だ。「あの子凄くないか?」私はH君に言った。これに対するH君の言い分が面白かった。彼は「いやあ、あんな子、ウチの息子の嫁に欲しいわ」と言ったのである。そう言うのも納得がいくくらい、その女の子は良い感じでおばあさんと話をしているのである。
「凄いよ。あの子。あの子、ウチの塾のスタッフになってほしいくらい。」と私が呟くと、H君は「スカウトしろ!行け!」とそそのかす。
「この時間、時間を潰すようにして、スターバックスにいる。学生ならば夏休みのはず。でも、この子の格好はお出かけというより「仕事帰り」という感じだ。社会人か?いやアルバイトの帰りという可能性もある。」なんてことを私は考えていた。つまりは色々シナリオを練っていたということだ。
いったい、どれくらい時間、彼女はおばあさんの話を聞いていただろうか。少なくとも30分以上はつきあっていたと思う。その間中、彼女はおばあさんから上手に話を引き出したりなんかして、見事にコミュニケーションをとっていた。時間が来た彼女はおばあさんにそれを告げ(その告げ方も上手だった)、席を立って店を出ていった。
H君は彼女の後ろ姿と私を交互に見ながら、「おい、行かんのか?行けよ!」と言うのだが、私は躊躇してしまったのである。行けなかったのである。スターバックスで見初めた女の子を追いかける47歳の自分の俯瞰図を想像してしまったのだ。
考えてみてほしい。若い女の子が、スーツも着ていない、ちょっと酒臭いおっさんに声をかけられて、「私はこういうもので、塾をやっておりまして・・・」と言って、信頼してもらえるかどうか。まあムリだ。しかも私は「名刺」というものを持っていない人間なのである。それが男性だったなら絶対声をかけていたろう。正直、女性だったからできなかったのだ。変なヤツと思われたくない、スケベなおっさんと思われたくないと思ってしまったのである。もう自分の行動力の無さにがっかりである。
そのとき、私はみかみ先生のことが思い浮かんだ。みかみ先生ならば絶対声をかけたと思う。私にはできなかった。
これを読んで下さってる方の中には、そのおばあさんとのエピソードだけで、その女の子を雇ってしまってよいのか、大丈夫か?と思う方もおられるだろう。それは当然である。
しかし、その子のコミュニケーション能力と、おばあさんへの優しさは半端なかった。無理して愛想よくしているのではなく、心の底から優しい感じがしたのだ。それが別に「心の底から」のそれでなかったとしても、H君に「ウチの息子の嫁にほしい」と言わせるくらいなのだ。
学力に関しては、勉強すればよほどの怠け者でないかぎり、何とでもなる。しかし、あのおばあさんへの接し方は1,000人に一人のレベルなのだ。あの子ならば生徒の力になってあげられるよい先生にきっとなる。学力レベルが未知でも、10,000ポイント取れる長所があるのだ。とんがった何処にも負けない塾を作るのに当たり前の人材の発掘の仕方をしていてはいけないというのが私の持論だ。
SORAの今の体制を作っていくときに、私は「自分が好きな人としか仕事をしない」と決めた。だから、今SORAにいるスタッフは皆、私が好きな人間だけである。森川先生も、コーシ先生も、井上先生も、酒井先生も、阪東先生も皆私の弟子のつもりでいる。(嫌いな人間は弟子にできない。)もちろんアルバイトのスタッフまで全員そうだ。SORAには私が見込みがあると判断した人間しかいない。
ちなみに、どこの塾にもヘボな先生がいるものだが、それは人が足りないときに、妥協して雇ってしまった人であることが多い。いきなり先生が辞めたので、人を補充しなければならないとか、新規校舎を出すから急いで雇ったとか、そういうときに雇いたくなかった人が混じってしまうのだ。私が一番避けたいパターンである。
私は「ああコイツは素晴らしいな」と思った人間を集めていき、より強い集団を作りたいと思っているし、ずっとそう言ってきた。だから、自分の主義を貫くのであれば、駄目で元々、トライするべきであった。(スケベなおっさんと思われないよう、私の持てる全ての技術を注ぎ込んで会話をするべきであった。)
本当に自分の弱さにため息が出た。ああもったいないことをした。これがこの夏の最大の後悔のお話である。
この話にはさらに続きというか、オマケがあって、私とH君がスターバックスを出た後、私はH君に、ひさしぶりの西大寺だからちょいとそのへん歩こうや、といって5分ほどブラブラした。
優秀なH君は私の意図を察知して言った。「お前、ちょっと時間潰したら、駅でさっきの子に会えるんちゃうかとちょっと思ってるやろ?」
そのとおり、私はそう思っていたのである。彼女は店を出るとき、駅の方向には行かなかった。だから何かの用事を済ませてから、駅へ行くはず。ならば時間をずらして駅へ行けば、会える可能性がある、そう考えていた。
よくよく考えれば、西大寺駅にはいくつもホームがある。そんな都合よく会えるわけはない。しかし、もし会えたなら、そのときは・・・みたいなことを考えて自分の乗る電車のホームに行った。
( ゚д゚ )
そしたらなんと、階段を降りたところに彼女はいた。つくり話ではない。本当の話である。
しかし、情けないことに、私はここでも彼女に声をかけられなかった。まあ、スターバックスで声をかけられなかったのだから、駅のホームでかけられるわけがないと言えばそのとおりだ。神様に再びチャンスをいただいたというのに、私はそれをふいにした。KO負け×2。
旧友との再会は楽しかったが、気分はプチブルー。「未熟なり!」という内なる声が聞こえてきた夜だった。