自塾の生徒に、他の塾の話を、わざわざ塾名を出してまでする塾というのは、「よくない塾」だと私は思っている。
塾の先生が他の塾の話をするとき、「○○塾っていうのは素晴らしい塾だね〜」なんて言っていることはほとんどないだろうから、たいていは「悪口」を言っていることだろう。「悪口」なんていうのは指導にまったく関係のない話なのでそういうことを頻繁にやっているような塾はまあよくない。わざわざ「悪口」とカギカッコをつけて言っているが、「悪口」というのはたいてい巧妙にやっているからである。
例を挙げてみよう。たとえば、ある他所の塾が私の『進学塾SORA』のことをこんなふうに頻繁に話していたとする。
「いやあ、SORAっていうのは本当に勉強できる子ばかりが通っているよね。奈良や畝傍に行く子しか通えないらしいし、ずいぶんと厳しいらしいよ。君たちも頑張ろうね。」
一見悪口でも何でもなさそうだが、大っぴらに悪口を言うと格好悪いのでたいていはこんな感じに、狡猾な感じで「悪口」をまき散らすのである。
結局上記の言い分は「SORAっていうのは奈良や畝傍にたくさん生徒が進学しているけれど、それは最初から勉強できる子が行ってるだけだからね。SORAが生徒を伸ばしている塾というわけじゃないからね。」という「刷り込み」になっており、巧に生徒達を「誘導」して、他塾の評判が上がらないようにコントロールをしているのである。
また、日頃から「SORAは勉強できる子しかいけないし、厳しい」と誘導しておけば、自分の塾からSORAに移ろうとする生徒は止められるし、世間でそういう評判になれば、敬遠した生徒が自分の塾に来るという思惑もあるだろう。くりかえしなされる行為には必ず意味があるものだ。そうでなければ何で他塾の話を頻繁に自塾の生徒にするのかという話になる。
貴重な生徒の時間を使ってそんなことをやっている塾が良い塾のはずがない。それは自塾の指導に対する自信のなさの表れであるし、やり方が卑怯である。
一方、ストレートに他塾の悪口を言い、「○○塾のヤツに負けるな」とハッパをかける塾もある。こういう場合、その塾の先生はよほど○○塾に負けたくないと思っている。負けたくないと思うこと自体は間違っていないとは思うが、本来なら、先生の指導力や、様々な工夫で生徒の学力を伸ばし、点数を取らせなければならないところを「○○塾に負けるな!」と、策もなく、売り上げを伸ばそうとする無能経営者のように生徒を焚きつける。指導の手法としては三流以下だ。
実は、他塾の悪口を言い、生徒を誘導して、仮想敵を作り、「あいつらに負けるな!」とやるのは、意外なことにけっこう効果的なのである。人の心の「ダークサイド」のエネルギーを利用しているからだ。「ダークサイド」のエネルギーというのはとても強い。だから人を動かしやすいし、また頑張らせやすい。(もっと言うと、洗脳もしやすい。)しかし、この方法で生徒に勉強させると、憎しみや怒りの感情を使わないとモチベーションを上げられないという性分が生徒達についてしまう可能性も高いし、心が荒みやすい。このエネルギーを利用するのは教師の「禁じ手」にしておかなければならない。こういう塾に通っている子の中には、他所の塾の子にやたらと点数を聞いてきたり、「お前には負けないぞ!」と敵意むき出しに「宣戦布告」をしてくる子も少なくない。なんとなく感じがギスギスしてくるのである。子供を動かせるからと、この禁じ手を使う塾が良い塾のはずがない。
誰しも自塾の指導が一番だから塾をやっているわけで、他の塾のやり方がよくないと思うときもあろう。私だって既存の塾のあり方にカウンターパンチを浴びせるつもりで塾をやっている。けれど、そういうのは自塾の指導の在り方で示すべきものなのだ。
もしお子さんが通ってらっしゃる塾で他塾の話が頻繁に出るならば、それは「よくない塾」の可能性が高い。もしそういうことがあるなら、お子さんが機嫌よく通ってらっしゃるとしても、よくウォッチしておくべきであると思う。